酪農を志す若者

2015年2月号のデーリーマンで、酪農学園大学の干場信司先生が、新規就農を考えて入学してくる学生の酪農に対する将来イメージについて、興味のあることを書かれています。以下抜粋しますと、「酪農学園大学には、新規就農を希望して入学してくる学生も少なくない。男子学生ばかりではなく、女子学生の新規就農希望者が目立つ。彼らの多くは、大規模な酪農経営を望んでいない。希望しているのは、広々とした自然の中で牛とともに営む農的な生活なのである。だから、牛の管理作業を嫌がらずに喜んでする。経済的な収益よりも生き方を優先する傾向が強い。従って、農業哲学を持って経営を行っている牧場に興味を持つのである」

我々、獣医を含め現在酪農に携わっている人間達は、新規就農者が必要だと口ではいいながら、求めるものはなかなか厳しいです。広々した自然だとか、農的生活だとか、チーズ作りだとか、アイスクリームだとかの話題になると、どうも真剣に取り合わない傾向が強いように思われます。それは、現実の酪農に携わっている人間に言わせれば、酪農経営はそんなに甘いものではないという気持ちが強いからだと思われます。

現在、北海道では農協が主体となった大規模牧場の設立や、個人農家の増頭など、離農に対する対策として規模拡大の方向でどうにか抵抗していこうという動きが見られます。

しかし、干場先生がおっしゃっている若者は、規模拡大とは真逆の考え方です。小規模でも自分が夢見た豊かな農村生活、スローライフを実現してみたいという若者の気持ちは、わかるような気がします。

我々も、飼養管理や経営の話だけでなく、酪農生活に関する良い点を、自分達で認識する必要があります。そして、若者の期待にこたえられる地域を創造してくことが重要だなぁと、感じました。

そして、もう一点。先生の最後の農業哲学についてです。農業は、単に儲かればいいというような、産業ではありません。景気のいい時代もあれば、悪い時代もあります。さらに、安心安全でおいしいものを、なるべく安く提供しなければいけないという、難しい問題もクリアーしなければいけません。そこで、儲けとは違うもう一つのベクトル、例えば、日本の食糧を生産しているのは俺たちなんだというような力強い自負と責任や、環境に負荷をかけずなるべく循環する農業を目指していく・・・など、なるほどと思わせる哲学が同時に必要なんだと思います。平成という時代は、バブルがはじけて経済立て直しのために、利益の追求が会社の一番の目的となり、社員を幸せにするとか、社会をより良くするとか、カネではない哲学がどんどん削られた時代だったような気がします。これからは、カネではなく人間を幸せにすることが、一番の目的になる社会を構築しなければ日本は幸せにはなれないと思います。


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コメント: 4
  • #1

    キャリームラムラ (金曜日, 10 7月 2015 15:21)

    新規就農は実際難しいですよね。田舎でさえ近隣住民の理解が必要だし、乗り越えなくてはいけないハードルが山ほどある。今、実際酪農を経営している人は、殆んどが二代目、三代目の人達でゼロからのスタートではないのが現状。新規就農を望む人は、跡取りのいない所にもぐり込むしかないのか?10年後の酪農家数は、今よりももっと減るだろう。少なからずTPPの影響も受けるだろう。いつか日本の酪農も世界文化遺産になるかも。

  • #2

    士別動物病院 田口 (月曜日, 13 7月 2015 21:32)

    コメントありがとうございます。日本の酪農は、予想通り進めばあと10年後には、現在の乳量の75%ほどになるそうです。たった10年で、25%も減ることになります。北海道はもう少しゆるやかな減少だとは思いますが・・後継者探しは個人ではなかなか難しい面があります。危機感を持って酪農の維持に努める必要がありますね。

  • #3

    夢見る現実者 (日曜日, 20 9月 2015 22:37)

    新規就農を希望して入学してくる学生とはすごいですね。
    18歳とか20歳そこそこで、人生のビジョンをある程度描けている若者は、そういないのではないでしょうか。
    若者たちでも、酪農が「難しい」とか「甘くない」とかそういう想像はある程度はついていると思います。
    それでも「やってみたいから学んでみる」「やりたいから、やるんだ」という若々しい情熱や酪農への夢・憧れを感じているのだと思います。嬉しいことですね。
    その生まれたての芽を潰すことなく、しっかり後押しできる先輩がいる地域が、新規就農者を育てていけるのだと思います。
    酪農家と新規就農希望者をつなぐパイプライン、コーディネーターも必要ですよね。
    ぜひ、頑張って欲しいところです。

  • #4

    士別動物病院 田口 (月曜日, 21 9月 2015 11:16)

    夢見る現実者様、コメントありがとうございます。
    その通りで、つなぐ人なり機関が必要なんだと思います。若い人を温かい目で、じっくり育てる方針、哲学を持った地域が、最終的には豊な地域になると思います。
    大きな施設のプロジェクトが注目されますが、施設を動かすのは「人」です。
    これからの世の中のキーワードは、お金ではなく「人」だと思います。
    「人」を育てた地域が、生き残るし、魅力のある地域になるんでしょうね。
    なによりも、酪農をしてみたいと思っている学生が世の中にたくさんいるというのが、素晴らしいですよ。
    私個人としては、かなり微力ですが、積極的に大学生を始めとする若い人の実習なり、相談なりを、受け付けて、少しでも役に立ちたいと思っています。
    士別の酪農が続くことで、我々だって恩恵がありますしね。